昭和館

特別企画展

歴史探偵 半藤一利展

この展覧会は令和5年7月15日(土)~9月3日(日)に開催され、好評の内に終了しました。

開催趣旨

「歴史探偵」と自らを称し、激動の昭和史と正面から向かい合った作家半藤一利氏が令和3 年(2021)1 月に亡くなり、2 年の月日が過ぎました。昭和10 年代は少国民として育ち、東京大空襲では九死に一生を得た半藤氏は、その生涯を昭和史の取材と研究に費やしました。半藤氏による歴史と戦争への「語り」は、現代を生きる私たちに大いなる示唆を投げかけているのではないでしょうか。
 令和4 年度、昭和館は半藤末利子夫人のご厚意により、半藤一利氏の遺稿・遺品等の寄贈を受けました。それを記念して、関連資料を紹介するとともに、半藤氏の足跡をたどる特別企画展を開催いたします。

主催昭和館(厚生労働省委託事業)
特別協力株式会社文藝春秋
後援千代田区・千代田区教育委員会
会期令和5年7月15日(土)~9月3日(日)
会場昭和館3階 特別企画展会場
入場料無料
開館時間10時~17時30分(入館は17時まで)
休館日毎週月曜日(7月17日は開館、7月18日は休館)
チラシ「歴史探偵 半藤一利展」

展示構成

Ⅰ.少年時代・学生時代

 半藤一利は昭和5 年(1930)5 月21 日、東京向島(現・東京都墨田区)生まれ、下町の江戸っ子として育ちました。父は運送業を営み、母は向島界隈きっての産婆さん、当時では珍しい共働きの家庭でした。
 7 歳になった昭和12 年に日中戦争が勃発、少年時代の殆どを戦時下で過ごします。「少国民」というよりは、本人曰く「とびっきりの悪ガキ」だった半藤少年、昭和18年に東京府立第七中学校(現・東京都立墨田川高等学校)に入学したものの、翌19年には勤労動員に駆り出されます。
 そして、昭和20 年3 月10 日の東京大空襲。命からがら猛火から逃げ延びた半藤少年の眼前に広がる悲惨な光景、壮絶な空襲体験はその後の人生に大きな影響を与えることになりました。

「こんにゃく稲荷」

画:半藤一利
半藤の生家の真向かいにある三輪里稲荷神社(通称・こんにゃく稲荷)は、向島界隈の子どもたちの遊び場であった。

長岡中学校4年生

右端が半藤。満面の笑み。


              昭和21年(1946)

版画「長岡中学正門と学舎」

作:半藤一利
長岡は雪国であるため、勉強しかすることがなかったと半藤は振り返る。図らずも成績が向上し、長岡中学校4年生の時には、模擬試験で全校1位をとる秀才となっていた。

慶大優勝す 全日本レガッタ

(読売国際ニュース第130号)
全日本レガッタのエイト決勝。慶応義塾大学が東京大学を振り切って優勝、ヘルシンキオリンピックの出場が決定する。半藤は終生、この敗戦を悔しがっていた。

            昭和26年(1951)9月

Ⅱ.文藝春秋社員時代

 ボート競技で全日本選手権優勝を成し遂げた大学4年生の秋、半藤は卒業後の進路について考え始めます。志望は政治・社会部の新聞記者、「戦争に負けたのは新聞が国民をあおったからだ」と考えていたことが動機でした。しかし、昭和27年(1952)当時は就職難の時代、さらにはボートに夢中になるあまり、就職試験を受け損う憂き目に遭います。困り果てた半藤の目にとまったのは、大学の掲示板に貼られた文藝春秋(当時は文藝春秋新社)の社員募集。ボート選手であったことが高評価につながり、晴れて採用となりました。 昭和28年3月、文藝春秋に入社してまもなく、坂口安吾の原稿取りを命じられた半藤は、安吾邸に一週間居候するという度胸の強さをみせます。また、入社4年目には昭和史探究のきっかけとなる人物、伊藤正徳と出会い、研鑽を積みます。その成果の一つが、『文藝春秋』昭和38年8月号誌上で行われた座談会「日本のいちばん長い日」でした。

文藝春秋新社の社屋屋上にて

銀座にあった社屋屋上でカメラテストのモデルをつとめる半藤。三島由紀夫と石原慎太郎の対談「新人の季節」(『文学界』昭和31年4月号)のために撮影された写真と同じポーズを取っている。          

昭和31年(1956)頃

『人物太平洋戦争』(文藝春秋新社、昭和36年)「監修者の私記」伊藤正徳直筆原稿

この私記には半藤の名前も登場する。若き半藤が精力的に軍人たちに取材を試みたことを評価するとともに、「底辺からも真人物を求めて描き出した所に特色と価値とを認める。それは、同じ年輩で戦場に散った人々への間接の供養にもなろう。」という賛辞も送っている。 

    昭和36年(1961)

見どころ① 座談会 日本のいちばん長い日
 ポツダム宣言が発表された昭和20年(1945)7月26日から、対ソ和平工作の失敗、2つの原爆投下、ソ連参戦を経て、8月14日に昭和天皇が終戦の聖断をくだすまでの模索と攻防、翌8月15日正午の玉音放送を巡る宮城事件(近衛師団を中心とするクーデター未遂事件)を中心に語られた座談会。敗北の日である8月15日を「日本のいちばん長い日」と名付け、さまざまな立場で終戦を迎えた30名(紙面参加2名含む)を集めて開催されました。築地の料亭「なだ万」の大広間、司会役の半藤は冒頭に次のような挨拶を述べます。
 「われわれがこの日を想起するのは、こんどの戦争で死んだ二百六十万人以上の同胞のことを忘れないためなのである。」 約5時間に及ぶ座談会で得られた成果は大きく、半藤は戦争の生き証人たちの記憶を残さねばならないという使命感を持つようになります。

『文藝春秋』(昭和38年8月号)

特集座談会として「日本のいちばん長い日」が掲載された。軍人、政治家、外交官といった中枢の人たち、銃後の人たち、捕虜収容所や監獄にいた人など、さまざまな層から参加者を集めた。30ページを超えるボリュームの座談会で、大きな反響を呼んだ。          

  昭和38年(1963)8月
             株式会社文藝春秋蔵

『日本のいちばん長い日』創作メモ

終戦の御前会議が開かれた昭和20年8月14日正午から翌日正午の玉音放送までの24時間、関係者談話を基にまとめたメモ。

Ⅲ.昭和の語り部として

平成6年(1994)、64歳で文藝春秋を退社、本格的に文筆業に打ち込む環境に身を投じます。作家としては遅咲きの独立でしたが、「半藤一利」の名前を以て筆一本で生きていく覚悟を固め、精力的に作品を発表しました。
退職すると、まずは代表作『日本のいちばん長い日』を「半藤一利著」の決定版として再版し、歴史物だけでなく俳句等の文化面に関する執筆にも手を広げます。さらには、版画やペン画の制作と個展開催など、マルチな才能が花開きます。
もちろん、半藤のライフワークである昭和史研究への探究心は衰えず、平成10年には『ノモンハンの夏』で山本七平賞、平成18年には『昭和史』で毎日出版文化賞特別賞を受賞、半藤の数々の業績が評価され、いつしか「昭和史の語り部」と呼ばれるようになりました。

見どころ② 半藤一利書斎 再現展示

自宅書斎で愛用していた机と椅子、執筆の際に使用した筆記具などを展示します。
この机と椅子は、文藝春秋を退社するにあたり、記念品として所望したものです。

*体験型展示を予定しています。

半藤一利自宅書斎 令和4年(2022)

見どころ③ 『ノモンハンの夏』ほか4作品 直筆原稿
自宅書斎で発見された直筆原稿、『ノモンハンの夏』『ソ連が満洲に侵攻した夏』『〔真珠湾〕の日』『世界史のなかの昭和史』の4作品を展示します。

『ノモンハンの夏』(文藝春秋)

昭和14年(1939)5月から9月にかけて満蒙国境をめぐって争われたノモンハン事件は、日本軍の死傷者約1万8千人の損害を出しながら、作戦失敗に終わった。なぜ関東軍は次々と戦力をつぎ込み、被害を拡大させていったのか。日本のエリート集団である陸軍参謀本部が己を見失ったことによる悲劇を描いた作品である。


              平成10年(1998)

『ソ連が満洲に侵攻した夏』(文藝春秋)

終戦直前の昭和20年(1945)8月9日深夜1時前、ソ連軍による満洲侵攻の火蓋が切られた。日ソ中立条約に頼り切っていた日本軍にとって、ソ連軍の侵攻は寝耳に水の奇襲であり、為す術もなかった。無策無能な日本軍、それに対して非情なまでの米ソ、国際政戦略に巻き込まれ、見捨てられ、殺されていった邦人たちの存在を、昭和史の悲劇として伝える作品である。

              平成11年(1999)

見どころ④ 『歴史探偵 忘れ残りの記』あとがき 直筆原稿
絶筆となった『歴史探偵 忘れ残りの記』(文春新書)のあとがき直筆原稿を展示します。

『歴史探偵 忘れ残りの記』あとがき 直筆原稿
絶筆となった『歴史探偵 忘れ残りの記』(文春新書)のあとがき。若かりし文藝春秋時代、吉川英治を担当した際の連載名がタイトルの由来。亡くなった当月の日付が入った原稿である。


令和3年(2021)1月
株式会社文藝春秋蔵

その他、平成31年2月(2019)に昭和館常設展示室で撮影した「半藤一利さんオーラルヒストリー」を特別企画展バージョンとして再編集して上映します。(上映時間:約40分)

イベント情報

(1)「歴史探偵 半藤一利展」オープニング記念座談会

終了しました。

テーマ「歴史探偵団と団長・半藤一利」
日時令和5年7月16日(日) 14時~16時
会場九段会館テラス4階会議室
パネリスト保阪正康(作家)、戸髙一成(大和ミュージアム館長)、井上亮(日本経済新聞記者)
司会林美和(昭和館学芸部)
定員100名 ※要事前申込(先着順)

(2)展示解説

終了しました。

担当者による展示解説を行います

日時令和5年7月30日(日)、8月20日(日)
14時30分~(所要時間30分)
会場昭和館3階特別企画展会場

(3)映画上映会

終了しました。

半藤一利原作の映画「日本のいちばん長い日 THE EMPEROR IN AUGUST」(原田眞人監督、平成27 年制作)を上映します。

日時令和5年8月5日(土)14時30分~ (上映時間136分)
会場昭和館1階ニュースシアター
定員50名 ※要事前申込(先着順)

イベントの申込方法についてはこちらのページをご覧ください。

お問い合わせ

〒102-0074 東京都千代田区九段南1-6-1 昭和館学芸部 林
TEL.03-3222-2577

Licensed by JASRAC

JASRAC許諾
第J190926935号